SAPコンサルとして知っておいた方が良い日本の商習慣として『締め請求(もしくは月次請求)』というのがあります。
注文の都度、請求するのではなく、月末などお客さんと取り決めたタイミングにひと月分の販売金額をまとめて請求するというものです。海外では基本的に注文の都度請求する形が多いので、日本特有の商習慣であるのですが、日本では広く活用されている方法となるため、国内企業へのSAP導入の場合には、月次で請求処理をできる仕組みを用意することになります。
実現方法は色々考えられますが、SAP標準で締め請求機能が用意されていますので、それを活用するのも1つの選択肢となります。アドオン開発をしなくてもカスタマイズだけすればSAPを使って締め請求を行うことが可能ですので、概要を説明したいと思います。
前提:締め請求を使うために必要なBPマスタ設定
締め請求を行うにはBPマスタという取引先を定義したマスタの登録が必要となります。この締め請求用のBPマスタには3種類あり、会社コードビューの日本特有機能の設定を行うタブで設定することとなります。この3種類というのは具体的には以下のものになります。
- 債権計上先
- 締め請求受取人
- 締め請求支払人
階層的には①が最下層、③が最上位階層になります。
BPマスタで設定した内容は、締め請求の得意先階層テーブル(ISJPHIERARCHY)に保存されます。
締め請求のオペレーション
締め請求を実行する時のオペレーションを簡単説明しておきますね。とてもシンプルな画面になっているので、感覚的に実行出来るかとは思いますが念のためご紹介しておきたいと思います。
①締め請求(トランザクションコード:ISJP_CR)
締め請求のオペレーションは大きく分けると2つで、1つが締め請求処理の実行で、もう1つがステータスレポートの照会です。ステータスレポートの照会に関しては、結果確認のイメージになるので、実質的には、この締め請求処理を実行するだけです。
上記のトランザクションコードを起動して、第一画面で締め処理をしたい締め日を指定して、対象データの絞り込み条件を入力します。その際に『月次請求書』か『合計請求書』かを指定するラジオボタンがあるので、それも指定します。
月次請求書というのが、請求書を発行する単位で債権残高を締める処理です。債権計上した得意先に対して、どの得意先に請求書を発行するのかは得意先マスタ(S/4 HANAの場合は、BPマスタ)の会社コードビューで指定します。
実行ボタンをクリックすると、対象データを表示する一覧画面が表示されます。その画面の左側にあるツリーから締め処理をしたいものにカーソルを合わせて右クリックするとメニューが表示されるので、請求書登録処理の実行を選んで登録します。
②締め請求のステータスレポートの照会(トランザクションコード:ISJP_STR)
締め請求の結果を確認する画面です。レポート画面なので、見たいデータの条件を指定して実行するだけです。
③締め請求の取り消し(トランザクションコード:ISJP_CR)
1度締め請求を実行した後に、何かしらデータの追加や修正があり、処理をやり直さないといけない場合には、一旦、取消処理を行う事があります。
その場合は、基本的には①の締め処理の実行と同様の流れになりますが、対象を選んで右クリックした時に、取消が選べるようになっているので、それを選んで実行するだけです。そうすると、締め請求のヘッダテーブル(ISJPINVSUMHD)の取消済の項目に値が設定されます。
インボイス対応用の消費税調整機能
ニュース等でも大々的に話題になっていましたので、多くの方がご存じだと思いますが、インボイス制度というものが日本でスタートしました。
消費税に関する制度になるのですが、SAPコンサルとして意識しておきたい内容は消費税額の計算をする際の端数調整単位だと思っています。特にSDコンサルの方、FIコンサルの方は必須で知っておくべき制度です(MMについては請求書を受ける側になるので、基本的には仕入先側で端数調整したものが送られてくるため、SD・FIに比べると優先度は低くなるかと思います。)
簡単に説明すると、1請求書内で消費税の端数計算は1回しか行ってはいけないという内容になります。つまり、請求書内に本体価格が\5,555の明細が3明細あった場合、合計金額の\16,665に対して消費税率を掛けることになるため、税率が10%の場合は消費税額が\1,667になります。従来は明細毎に税率を掛けて良かったので、その場合は消費税額としては\1,668になります。(\556×3明細)
この制約によってシステム的に求められるのが、インボイス制度の要件に沿った形で消費税額を計算することなのですが、SAPの締め請求には端数調整機能が用意されているため、締め請求としてまとめた単位で消費税額を再計算してくれ、そこで算出された差額を調整額として仕訳登録してくれます。
入金の自動消込も可能となった
締め請求を実装している場合に可能となった機能として、入金時に債権を自動消込するというものがあります。
個別にマニュアルで入金処理をしている分には従来から入金の仕訳と同時に消込をすることも可能でしたが、FBデータを取り込んで同時に消込をするとなるとアドオン開発をする必要がありました。ですが、締め請求を使用している場合は電子銀行報告書のインポート機能(TrCd:FF_5)でFBデータを取り込むのと同時に債権の消込ができるようになりました。(昔はできなかった理解なので、おそらくS/4HANAから可能になったのだと思います)
まとめ
締め請求機能について今回はご紹介しました。
今回書ききれなかったのですが、使うにあたっての制約や業務にフィットしないケースももちろんあるので、お客様企業にヒアリングをして使えそうなら使ってみてください。
コメント