原価計算の目的と原価の本質|原価計算基準の「一〜五」と非原価項目を解説

原価計算を学ぶときに最初に押さえたいのが、「何のために原価を計算するのか」と「何を原価に含め、何を含めないのか」の2点です。原価計算基準は、第一章の「一」から「五」でこの土台を定めています。この記事では、原価計算の5つの目的、原価計算制度、原価の本質、原価の諸概念、非原価項目を順に整理し、現代の実務やSAPでどう扱われているかを解説します。原価計算をステップアップ形式で学ぶシリーズの第2回です。

原価計算の5つの目的(基準 一)

原価計算基準は、原価計算の目的として次の5つを挙げています。現代の実務での例とあわせて整理します。

目的 基準の趣旨 現代の実務での例
(一)財務諸表作成目的 財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計する 製品・仕掛品の棚卸資産評価、売上原価の計算
(二)価格計算目的 価格計算に必要な原価資料を提供する 見積・受注価格の検討、官公庁との契約での原価算定
(三)原価管理目的 原価の標準を設定し、実際と比べて差異の原因を分析し、原価能率を高める 標準原価と実際原価の比較、工場の原価低減活動
(四)予算管理目的 予算の編成と予算統制に必要な原価資料を提供する 部門予算の作成、予算と実績の比較
(五)経営の基本計画設定目的 製品、立地、生産設備など経営構造に関する意思決定に必要な原価情報を提供する 新製品の採算検討、設備投資、内製か外注かの判断

ポイントは、1つの原価計算で複数の目的を満たそうとしていることです。財務諸表のための原価は「外部に説明できる正確さ」が、原価管理のための原価は「現場が行動を変えられる細かさ」が求められます。同じ数字でも、目的によって求められる精度や集計単位が違うことを意識しておくと、原価計算の設計が理解しやすくなります。

原価計算制度と特殊原価調査(基準 二)

原価計算基準は、財務会計の仕組みと結びついて常時継続的に行われる原価計算を「原価計算制度」と呼び、基準の対象としています。原価計算制度には、実際原価で計算する実際原価計算制度と、標準原価で計算する標準原価計算制度があります。

これに対して、設備投資や内製・外注の判断のように、必要なときに臨時に行う原価の調査は特殊原価調査と呼ばれ、原価計算制度の外に置かれています。上の5つの目的のうち(五)の経営の基本計画は、主に特殊原価調査で扱う領域です。

区分 原価計算制度 特殊原価調査
実施のタイミング 常時継続的(毎月の締めなど) 必要なときに随時
財務会計との関係 帳簿と結びついている 帳簿の外で行う
使う原価の例 実際原価、標準原価 差額原価、機会原価など意思決定のための原価
SAPでの例 COの実績計上、配賦、製品原価計算、差異計算 COの計画データを使ったシミュレーションや、SAPの外での分析

原価の本質(基準 三)

原価計算基準は、原価を「経営における一定の給付にかかわらせて把握された財貨または用役の消費を、貨幣価値的に表したもの」と定義し、原価の本質として次の4つを挙げています。

  1. 経済価値の消費であること:対価を払って手に入れた財貨や用役を消費したものが原価です。空気や日光のように経済価値のないものは原価になりません。
  2. 給付に転嫁される価値であること:原価は、製品やサービスなどの給付と結びつけて把握されます。給付には完成品だけでなく、仕掛品や半製品などの途中段階のものも含まれます。
  3. 経営目的に関連したものであること:製品の生産と販売という経営目的に関係する消費だけが原価です。資金の調達や返済に伴う財務費用などは原則として原価に含めません。
  4. 正常なものであること:正常な経営活動の中で生じた消費が原価です。災害や異常な事故による損失は原価に含めません。

ここで注意したいのは、原価計算基準の「原価」には販売費および一般管理費も含まれることです。製品の製造にかかる製造原価に、販管費を加えたものを総原価と呼びます。日常会話の「原価」は製造原価や売上原価を指すことが多いので、混同しないようにしましょう。

原価の諸概念(基準 四)

基準は、原価計算制度で使う原価の概念を、次の3つの切り口で整理しています。詳しくはシリーズの後半で扱います。

  • 実際原価と標準原価:実際にかかった原価か、あらかじめ科学的・統計的に定めた目標としての原価か。
  • 製品原価と期間原価:製品に集計して棚卸資産を経由するか、発生した期間の費用として処理するか。販管費は通常、期間原価です。
  • 全部原価と部分原価:すべての製造原価(または総原価)を集計するか、変動費だけのように一部を集計するか。部分原価の代表が直接原価計算です。

非原価項目(基準 五)

原価の本質から外れるため、原価計算制度で原価に含めない項目を非原価項目と呼びます。基準は次の4つに分けています。

区分 主な例
(一)経営目的に関連しない価値の減少 投資目的の資産や、使っていない(未稼働・長期休止の)固定資産の減価償却費、支払利息などの財務費用、有価証券の評価損・売却損
(二)異常な状態を原因とする価値の減少 異常な仕損・減損・棚卸減耗、火災や震災などの偶発的事故による損失、固定資産の売却損・除却損
(三)税法上とくに認められている損金算入項目 特別償却のように、税法の特例で認められた通常の範囲を超える償却額など
(四)その他の利益剰余金に課する項目 法人税・住民税などの税金、配当金など

計算例:当月の支出を原価と非原価に分ける

ある工場を持つ会社の当月の項目を、原価計算基準の考え方で分けると次のようになります(数値は仮のものです)。

項目 金額(万円) 区分 理由
原材料の消費 500 製造原価 製品の生産のために消費した
工場の電気代 80 製造原価 製品の生産に関連する正常な消費
本社の人件費 200 原価(販管費・期間原価) 経営目的に関連するが、製造原価ではない
長期休止中の工場の減価償却費 30 非原価 経営目的に関連しない価値の減少
借入金の支払利息 20 非原価 財務費用
倉庫の火災による在庫の損失 50 非原価 異常な状態を原因とする価値の減少

この例では、製造原価が580万円、販管費を含めた総原価が780万円で、残りの100万円は原価計算の対象外になります。財務会計上はどれも費用や損失として損益計算書に載りますが、原価計算では「製品の原価として集計すべきもの」とそれ以外を区別します。

現代の実務での読み替え

  • 正常か異常かの線引きは会社が決める:仕損や棚卸減耗のうち、どこまでを正常(原価に含める)とし、どこからを異常(非原価)とするかは、過去の実績などから会社ごとに基準を決めて運用します。線引きを曖昧にすると、月によって製品原価がぶれる原因になります。
  • 目的によって原価の範囲を変えてよい:原価計算制度では支払利息を原価に含めませんが、受注価格の検討や投資判断のような意思決定では、資金コストを含めて考えることもあります。基準の範囲は「制度としての原価計算」の話だと理解しておくと混乱しません。
  • 遊休設備の判断:多品種少量生産や需要の変動が大きい現代では、一時的に使っていない設備が「遊休」なのか「正常な余力」なのかの判断が難しくなっています。製品原価に含めるかどうかは、操業度や配賦の考え方とあわせて決める必要があります。

SAPではどう扱われるか

SAPでは、どの費用を管理会計(CO)に流すかをG/L勘定の設定で決めます。S/4HANAでは勘定タイプで、原価や収益としてCOに流す勘定(一次原価または収益)と、COに流さない勘定(営業外費用・収益)を区別します。SAP ERP(ECC)では、原価要素を作成した勘定だけがCOに流れます。

原価計算基準の区分 SAPでの扱いの例
製造原価・販管費 一次原価の勘定として、原価センタや指図に計上する
非原価項目(支払利息、有価証券評価損など) 営業外費用の勘定にしてCOに流さない
判断が会社によって分かれる項目(遊休設備の償却費など) 専用の勘定や原価センタを分けておき、集計や配賦の対象にするかを設定で制御する

非原価項目をCOに流してしまうと、製品原価や部門の実績に不要な費用が混ざります。勘定コードを設計する段階で、原価計算の範囲をどう決めるかを経理部門と合意しておくことが大切です。

まとめ

原価計算基準は、原価計算の目的として財務諸表作成、価格計算、原価管理、予算管理、経営の基本計画の5つを挙げ、常時継続的に行う原価計算を「原価計算制度」として定めています。原価は、経営目的に関連した正常な経済価値の消費であり、それに当たらないものは非原価項目として除外されます。この「原価の範囲」の考え方は、SAPでは勘定の設定として表れます。次回は、原価をどのような切り口で分類するかを解説します。

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